発音は宿題で教えられるか?

投稿者: 西澤倫 | 査読者: 江口政貴| 日付: 2021-04-17

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この研究の背景

  • わかりやすい発音はコミュニケーションにおいて重要であるが、授業時間や教員の発音指導経験の乏しさからあまり指導されていない。
  • 先行研究は、発音指導には文法指導や語彙指導などと同様に効果が期待できることを示している。
  • 発音学習では、聞き取りが産出に先行すると度々報告されている。また、聞き取りには、1人の話者ではなく、複数の話者の音声を聴くHigh Variability Phonetic Training (HVPT)という指導法が音の聞き分けに効果的であることがわかっている。
  • 教員の発音に対するフィードバックは、(特に初学者の場合)発音習得に必ずしも必要(または効果的)でないと先行研究で示されている。

この研究の課題と意義

  • この研究は、宿題(以下参照)で教員のフィードバック無しに発音を指導することが可能なのかを検証した。

調査の方法

49人のドイツ語学習者(大学生)を宿題指導のみ、授業内指導のみ、指導なしの3クループに分け、10個の発音の特徴(主に母音や子音)を扱った。指導効果検証のため、指導の前後には聞きとりと発音のテストが行われた。また、質問紙によって指導の感想などが集められた。

  • 宿題指導のみ:パワーポイントで週3回(聞き取り×1、発音×2)を10週間(一回あたり10―15分程度)
    • 聞き取り:HVPTを使って、(1)非母語話者の発話と母語話者の発話を聞き分け、と(2)音の聞き分け練習(英語で言うLとRなど)を行った(母語話者9人の音声が使用された)
    • 発音:音の出し方を指導した後、母語話者のモデルに続いて真似る練習(これもHVPTを活用)
  • 授業内指導のみ:授業時間を10分間使用し、30日間実施した(聞き取り×1、発音×2)
    • 聞き取り:上記のグループと同じ活動を同じ教材を使用し行った
    • 発音:上記のグループに加え、教員からのフィードバックが与えられ、ペアワークが行われた
  • 指導なし:発音指導は一切行われず、前後のテストのみ受けた(ドイツ語の授業を通常通り受けた)

聞きとりの評価には、宿題と同じ語彙が使用され、発音の評価には文と段落の音読が行われた。聞き取りは正誤で評価され、音読は8人の母語話者によって理解のしやすさが評価された。

結果

  • 聞き取り:指導の前後を比べると、(1)(非)母語話者の聞き分けは、宿題グループのみ改善が見られた。(2)音の聞き分けでは全グループが上昇を見せたが、宿題グループが他グループと比べ大きく向上した。
  • 発音:文の音読では、指導の前後で宿題グループと授業グループが指導なしグループを上回った。詳細に比べると、授業グループがわずかに宿題グループを上回った。段落の音読では、全てのグループが向上したが、宿題グループが他グループと比べ若干伸び率が高かった。
  • 指導の感想:「指導をどれほど楽しんだか」という質問では、授業グループがわずかに宿題グループを上回ったがそれ以外は両者に違いは見られなかった。

実用的意義・示唆この結果は何を意味するのか?

この研究は、宿題として大学生に発音を指導することは授業時間を使って発音指導をすることと同等かそれ以上の効果が期待できることを示した。また、指導に対する生徒の満足度もほぼ同等であることを示した。限られた授業時間を使用するのではなく、授業外の時間を活用することの可能性をこの論文は示唆した。

論文情報 Martin, I. A. (2020). Pronunciation can be acquired outside the classroom: Design and assessment of homework-based training. The Modern Language Journal104(2), 457–479. https://doi.org/10.1111/modl.12638