投稿者: 西澤倫 | 査読者: 江口政貴 | 日付: 2020年12月7日

この研究の背景
- 現在、英語の非母語話者の数は、母語話者の数に比べて比較にならないほど多い。
- 本研究のテーマである英語運用能力テスト(例:TOEFL iBT、IELTS、TOEIC)は実社会での言語運用を確実に反映することを目的としている。
- しかし、このようなテストのリスニングは概してアメリカとイギリスのアクセントを採用してきた。近年、他のアクセント(例:ニュージーランド、カナダ、オーストラリアなど)も試験的に採用されてはいるものの、非母語話者の音源への採用は、未だ行われていない。
- 上記をまとめると、母語話者のみをリスニングの音源に採用するのは、非母語話者の圧倒的な実社会での存在に即していない。応用言語学の学者らは、非母語話者の採用を強く主張しているものの、テスト作成者にとって、どの非母語アクセントを採用するか、いくつ採用するか、どのリスニングセクションで採用するか、などが課題となっている。また、テスト受験者と話者が母語を共有する可能性など、テストを公平にするために考慮されるべきことが多くある(母語を共有している場合、リスニングの理解度が高いことがわかっている)。
この研究の課題と意義
- この研究ではTOEFL iBTのリスニングセクションの模擬テスト(レクチャー)として、母語話者版と非母語話者版を作成し、話者とテスト受験者が母語を共有している場合と、していない場合とで、どれほどテストの得点に影響があるのかを調査した。もし、2つの間に点数の違いがないのであれば、非母語話者を音源に採用することは支持される。
調査の方法
- レクチャーの話者(本研究のために録音):計18人(アメリカ、イギリス、インド、南アフリカ、中国、メキシコ<スペイン語を母語とする>出身の6地域から3人ずつ)
- アメリカとイギリス出身以外の話者は、外国語訛りの強さと理解のしやすさがそれぞれ異なる。
- 外国語訛りが強く、理解がしにくい話者1人
- 外国語訛りの強さも理解のしやすさも中程度の話者1人
- 外国語訛りが弱く、理解がしやすい話者1人
- アメリカとイギリス出身以外の話者は、外国語訛りの強さと理解のしやすさがそれぞれ異なる。
- 受験者の出身地:上記の地域から10人ずつ、計60人(非母語の受験者はTOEFL iBTで100点以上)
結果
- 話者に注目して正答数を分析すると、以下のような順序で正答率が低下することがわかった。つまり、母語英語(アメリカ英語とイギリス英語)は非母語英語に比べて正答されやすかった。
- アメリカ英語=イギリス英語 > インド英語 > 南アフリカ英語=中国英語=メキシコ英語
- インドと南アフリカ出身の受験者は、母語を共有していた場合のみ、他の話者のときに比べて正答数が高かった。
- しかし、非母語話者の中でも、最も外国語訛りが弱く・理解しやすい話者の場合は、アメリカ英語、イギリス英語と比べた際に母語の共有による影響は見られなかった。
実用的意義・示唆—この結果は何を意味するのか?
- 最も外国語訛りが弱く、理解しやすい話者は、受験者との母語の共有の影響が見られなかった。これは非母語話者をテストに採用する意見を支持する。また、今後より多様な話者を含めて追加研究が行われるべきだ。
論文情報: Kang, O. Moran, M.& Thomson, R. (2019). The Effects of International Accents and Shared First language on Listening Comprehension Tests. TESOL Quarterly, 53(1), 56-81. https://doi.org/10.1002/tesq.463