Contributor: 石山ひかる | Reviewer: 西澤倫 | Date: 2022-03-25

研究の背景
- 言語学習の動機には統合的動機付け(integrative motivation)と道具的動機付け(instrumental motivation)の2種類がある。前者は目標言語を話す人たちのコミュニティーに加わりたいという動機であり、後者は目標言語の習得を通じて就職や資格取得などの目標を達成したいという動機である。
- 目標言語に触れる機会の多い留学においては、統合的動機が高まりやすい。さらに統合的動機付けの強さは言語学習に費やす努力や時間と強い結びつきがあるということも従来の研究により明らかになっている。
この研究の目的
本研究は、言語学習における動機付けの種類(統合的、道具的)や目的言語を使った留学先での交流の量が学習者のスピーキング能力の向上に関係するのかを明らかにすることを目的としている。
研究手法
スペインのマドリードで1学期間スペイン語を学ぶアメリカ人留学生20人(16人がホームステイ、4人がアメリカ人とルームシェア)が参加した。言語学習の動機付けの種類は留学前に実施されたアンケートにより調べられ、留学前後のスピーキング力の変化は45分間のスペイン語によるインタビューで調べられた。インタビューはACTFL(アメリカで主流の言語テスト)の評価基準をもとに10段階で総合的に評価された。留学中の現地の人との交流の質や量は学期末に質問紙によって調査された。質問項目には「スペイン語ネイティブの人と話した」や「スペイン語の音楽を聴いた」等があり、1週間平均で何時間費やしたかが調査された。
結果
- 留学生は統合的動機付けと道具的動機付けの両方に支えられていることが分かった。
- 留学生はスペイン語母語話者との会話に1週間に平均して16.80時間費やしていることが分かった。
- 20人中16人のスピーキング力がACTFLの基準で1段階以上上がった。その内15人がホームステイであった。
- 統合的動機付けが高い留学生の方が現地での交流により多くの時間を費やしたが、道具的動機付けの高低は交流の量に影響を与えなかった。
- 現地での交流の量はスピーキング力の向上に大きく寄与した。例えば、ACTFLの基準でスピーキング力が2段階上がった5人の留学生は1週間平均で92.30時間も授業外でスペイン語を使用していた。
考察・示唆
本研究により、統合的動機付けが留学先でのより多くの言語使用に繋がり、さらにそれがスピーキング力の向上に寄与することが分かった。また、スピーキング力が向上した留学生のほとんどがホームステイであったことから、ホームステイの意義が改めて確認された。留学以外でも、メールやチャット、Skypeなどの様々なコミュニケーション手段を用いて学習者が目標言語を使用し、目標言語の文化に触れる機会を増やすことで、学生の統合的動機付けを高める工夫が望まれる。
Original Article: Hernández, T. A. (2010). The relationship among motivation, interaction, and the development of second language oral proficiency in a study-abroad context. The Modern Language Journal, 94(4), 600-617. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.2010.01053.x
Cite this summary: Ishiyama , H. (2022). 留学中のスピーキング力向上は交流の量やモチベーションとどう関係するのか. Multiʻōlelo Summary of Hernández (2010) in The Modern Language Journal. Retrieved from https://multiolelo.com/?p=1849