投稿者: 北田 勝彦 | 査読者: 西澤倫 | 日付: 2020-01-15

研究の背景
- 第二言語におけるリスニング能力は、大きく分けてトップダウン処理とボトムアップ処理の二種類に分類される。前者は、キーワードや文脈からその後の内容などを予測したり、既存知識や情報を参照して理解を広げる方法であり、後者は単語一つ一つを聞き取り、それらを繋ぎ合わせて意味を構築し理解を深めていく方法である。
- 未知の単語などが出てきた時に、既存知識の活用や文脈からの予測や参照を行う能力を強化する戦略的アプローチはトップダウン処理能力の育成方法の一つに区分され、リスニング能力だけでなく、学習者の学習に対するモチベーションやリスニング能力への自信も向上することが示されている。一方で、ボトムアップ処理能力の育成は、第二言語学習者の単語を聞き取り、理解する能力を高め、リスニング能力の長期的な向上に寄与することがわかっている。両者とも学習に役立つことはわかっているものの、これらはどちらもリスニングに必要な能力であるため、双方を取り入れた教授法の効果の是非が議論されている。
この研究の目的
- この研究は、戦略的アプローチ(トップダウン)とボトムアップアプローチを複合させた指導が、学習者のリスニング能力の向上にどの様に寄与するかを明らかにすることを目的とする。
研究手法
- 台湾の大学生77名(全員、中級以下の英語学習者)が平均週1時間の指導を約2ヶ月間行った(合計22時間)
- 33名は戦略的アプローチのみ、34名は複合ボトムアップアプローチ(戦略的アプローチとボトムアップアプローチの指導時間を均等に分割)によって指導した。
- 戦略的アプローチのみ
- わからない単語や場面、内容などの推測や予測、強勢のある単語と談話標識(well, ohなど)へ注意を払う、メタ認知の育成(例:繰り返し聞き、自分の理解とどのような戦略を使ったかを確認しながら聴く活動)
- 複合ボトムアップアプローチ
- 上記の能力に加え、音の変化、文の強勢(例:強調、対比)、話者の態度、文法、ミニマル・ペアの聞き取り
- 戦略的アプローチのみ
- 33名は戦略的アプローチのみ、34名は複合ボトムアップアプローチ(戦略的アプローチとボトムアップアプローチの指導時間を均等に分割)によって指導した。
- 評価:指導前後のテストとアンケートによって、指導によるリスニング能力とボトムアップ処理能力、参加者の心的変化(例:モチベーションなど)を測った。
結果
- リスニング能力の伸び幅を比べると、戦略的アプローチのみの指導を受けた参加者が双方の指導を受けた参加者を上回った。また前者の参加者は、リスニングに対するモチベーションや自信もいくらか上昇した。
- ボトムアップ処理能力については、複合ボトムアップアプローチの指導(ボトムアップ処理を含む)を受けた参加者が、戦略的アプローチのみの指導(ボトムアップ処理を含まない)を受けた参加者の伸び幅を上回った。
考察・示唆
- 中級以下の英語学習者のリスニング能力を向上させるためには、戦略的アプローチのみを指導する方法が、ボトムアップ処理能力を並行して指導する方法より効果的であることがわかった。また英語学習者のモチベーションを向上させるという点においても、戦略的アプローチのみの指導が効果的な方法の一つであると言える。
論文情報: Yeldham, M. (2016). Second language listening instruction: Comparing a strategies-based approach with an interactive, strategies/bottom-up skills approach. TESOL Quarterly, 50(2), 394-420. https://doi.org/10.1002/tesq.233