小学校英語学習者のEFLに対する動機と心理的ニーズ

投稿者: 増田紫織 | 査読者:  江口政貴 | 日付: 2020-04-22

この研究の背景

・日本の小学校で「総合的な学習の時間」が導入され、学際的な学習活動(IT、環境、異文化理解など)の一貫として週に一回、5年生と6年生を対象に英語活動が行われている。

・2008年に改定された指導要領で文部科学省は「生きる力」や「自ら学ぶ力(意欲)」を育むことを強調している。

・「自ら学ぶ力」に繋がる自身の内側から発生するやる気=内発的動機と賞罰や評価など人為的な刺激により生まれる動機=外発的動機を自己決定性理論[1]に基づいて研究した。

・自己決定性理論では、自己決定性が高まると内発的動機づけに近づくと考えられている。

・外発的動機づけは自己決定性の程度の低い順から以下の4つに分類される。

  1. External regulation(外的調整):賞罰などにより人為的に動機づけられた状態
  2. Introjected regulation(取り入れ調整):自己決定性はあるが、プレッシャーなどにより動機づけられた状態
  3. Identified regulation(同一化調整):行動自体が興味深くなくとも、それを行うことに重要性を見出した状態
  4. Integrated regulation(統合的調整):最も自己決定性が高く、外発的刺激が内発的な動機に統合された状態。

・自己決定性理論を基にした先行研究では、自己決定性のパターンが (1) 外的調整 → (2) 取り入れ調整→ (3) 同一化調整 → (4) 統合的調整というように変化することが分かっている。

研究の目的

カレイラ(2012)は、小学生のEFLに対する4つの外発的動機づけと内発的動機を識別し、3つの基本的心理欲求「自律性」「有能感」「関係性」[2]とどのように関連しているかを調査した。

研究手法

・参加者:東京の公立小学校に通う小学校5年生と6年生、計505名

・2種類のアンケート (アンケート1:動機づけ志向について、アンケート2:基本的心理欲求について)

結果

・探索的因子分析 (Exploratory Factor Analysis) という手法により、アンケートへの回答傾向を基に動機づけの志向を調査した。その結果、小学生の動機的志向がintrinsic motivation (内発的動機)external regulation(外的調整)、 introjected-identified regulation(取り入れ・同一化調整)の3つの要因に分類された。

・先行研究のように、同調査の小学生のEFLに対する動機づけも、自己決定性が少ない動機づけの形態 (例:外的調整)から自己決定性の高い動機(例:同一化調整)へと変化することが分かった。

・内発的動機とより強く関連しているのは、自己決定度の少ない動機の形態ではなく、3つの基本的心理欲求であった。

考察・示唆

・この研究により、より自己決定性の高い動機が内発的動機に近くなることが示された。これは児童の自律性を高めることで、動機づけを高めることができることを示唆している。つまり、強制的に英語を勉強させられる子どもは英語を嫌いになる傾向があると考えられる。したがって、児童が自ら考え行動できるような手立てが必要である。例えば、児童が学習の内容を決めることができるよう、選択の自由を与えることも一つの方法である。

・また、自己決定性の高い動機づけには、児童の「できるんだ」という認識=有能性が深く関連している。児童が有能性を感じるためには、予測可能な学習環境、建設的なフィードバック、児童の英語能力に応じたタスクなどを提供する必要がある。児童が成功体験や達成感を得ることで、より内発的動機に近づけることができる。

・さらに、この研究は児童の「身近な人と良い関係性を持ちたい」という欲求が内発的動機と深く関連していることを示唆している。よって、児童が教師やクラスメイトと繋がりを感じることのできるような学習環境作りが重要である。例えば、少人数のグループ活動を取り入れることで児童同士の繋がりを深めることができる。また、教師が一人一人の言葉に耳を傾け、児童と共に過ごす時間を大切にするのも良い関係性を高める方法の一つである。

論文情報:  Carreira, J. M. (2012). Motivational orientations and psychological needs in EFL learning among elementary school students in Japan. System, 40, 191-202.


[1]  デシとライアン(1985)の提唱した理論の一つ、「基本的心理欲求理論」から発展した。人間は「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的心理欲求をもっており、それらの心理的欲求が行動という形として現れ学習や課題に取り組むものであり、その心理的欲求が満たされる(または満たされない)ことによりパフォーマンスに影響が及ぶ。

[2] 自律性:自らが決定権を持ち、行動したいという心理的欲求。有能感:難しいことであってもそれに挑戦したいという心理的欲求。関係性:教師、親、友達など、身近な相手と良い関係性を持ちたいという心理的欲求。

Photo credit: https://images.pexels.com/photos/256468/pexels-photo-256468.jpeg?auto=compress&cs=tinysrgb&dpr=2&h=650&w=940

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